5日間で洗脳完了?-映画「ザ・ウェイブ」(2008独)あらすじ感想など

2020年4月19日

2008年ドイツの映画「The WAVE(ザ・ウェイブ)」は、アメリカの高校で実際に行われた実験の記録をもとにした物語です。

ザ・ウェイヴのあらすじをネタバレなしで

アメリカの出来事がベースですが、映画はドイツの高校を舞台にしています。

高校で社会実験の授業が行われることになり、水球部顧問のライナー・ベンガーは独裁をテーマにしたクラスを担当します。

コースを選択したのはごく普通の生徒たちでしたが、一週間もたたないうちにクラスはライナーを指導者としてたたえる排他的な集団に変わってしまいます。

人は誰もがその時代その社会の常識に洗脳されているとも言えますが、忌み嫌っていたはずの思想に一週間で染まる?

なぜこんなことが起きたのでしょう。

元ネタになった実話「サードウェイブ実験」では死傷者こそ出ていませんが、5日間の間に学生はすっかり洗脳されていました。

サードウェイブ実験|Wikipedia

映画「THE WAVE」の一週間はこうでした。

TheWAVE高校生の体験した独裁化への一週間

月曜日:「今のドイツに独裁はあり得ない」

授業ではまず独裁の定義、独裁が支持される条件などが議論され、独裁に絶対必要な要素として指導者に教師ライナーが選ばれます。

ライナーの選出は多数決によるもの。

ライナーは「これからは私をベンガー様と呼べ」と指示し、発言はライナーの許可を得てから起立して行うというルールが示されました。

これはあくまで実習です。

生徒たちは「現代のドイツで独裁などあり得ない」と考えています。

火曜日:制服制定

実験2日目。

ライナーが教室に入って行くと生徒たちは一斉に起立し「おはようございますベンガー様」と声を揃えて挨拶します。

この日、クラスの制服が白いシャツとジーンズに決まりました。

水曜日:街のいたるところにチームWAVEのロゴが落書きされる

多数決によりチーム名が「WAVE」と決まります。

夜になると男子生徒らが集まり、街のあちこちに「WAVE」のロゴをスプレーしはじめました。

工事中のビルにかけられたシートにはひときわ大きなロゴが描かれ、人々の注目を集めます。

木曜日:敬礼と指導者の警護者発生

生徒たちは自主的にチームWAVE独自の敬礼スタイルを作り、その敬礼は下の学年にも広まっていきます。

敬礼をしない生徒が締め出される事態も。

教師ライナーの警護を申し出る生徒も現れました。

 

ナチス式敬礼など↓

金曜日:WAVEメンバーによる暴力行為

WAVEメンバーの暴力行為が複数発生。

教師ライナーも妻に対して権力者のような口ぶりで話すようになりました。

土曜日:死傷者2名

ネタバレを読む

実習授業は1週間のプログラムながら、生徒たちはWAVEの存続を望んでいます

しかしライナーは全員を体育館に集め、WAVEが独裁状態であることを気付かせたうえ解散を宣言しました。

生徒たちは魔法が解けたように我にかえり、体育館を出ようとしますが、解散を受け入れられない男子生徒ティムが隠し持っていた拳銃を発砲。銃弾を浴びた生徒は倒れます

ティムは、「もう終わりなんだ」と説得するライナーの言葉を聞くと、銃口を口に入れて自殺しました。

 

…と、起きた事象だけを並べてみてもやっぱり「なんでこうなるの?」でしょう。

映画を見ると理解できます。

2020年4月、この作品を配信しているVODサービスはありません。

DVDレンタルをご利用下さい。

THE WAVEの感想など

「今どき独裁なんて」と言っていた高校生がこうも簡単に変容する過程には、興味深い点がいくつかあります。

指導者ベンガー様は枠組みを作っただけ

映画で教師ライナーがしたことは、席替えとベンガー様という呼称の決定、発言時は起立というルールの設定、指導者の決定とチーム名の決定、制服の決定ですが、指導者とチーム名は多数決で決めています。

敬礼は生徒たちの発案で生まれました。

街をWAVEのロゴで一杯にすることや、水球の応援に白シャツが必須となることなどには、ライナーは一切関与していません。

教師はきっかけを作っただけで、その後の驚くべき現象は生徒たちの間で進行しています。

好ましい変化が先に現れる

チーム結成後、ひ弱なティムを白シャツメンバーがいじめグループから守る場面がありました。

WAVEの名のもとの友情です。

仲間を助けた。助けてもらった。こうした高揚感は、彼らをより強く組織に執着させることでしょう。

敵となるものの存在

2度目の授業でライナーは生徒たちに足踏みを命じ、「階下の教室に天井の破片を落とせ」と鼓舞しました。

すると生徒たちは俄然楽しそうに足を踏み鳴らしはじめます。

敵の存在は、集団の求心力やモチベーションをアップします。

映画の中では、町のパンクグループという敵がWAVEの結束を強めたと言えますが、この時WAVEは銃で脅すという手段をとってしまいました。

もしも友好的に乗り切る外交術があったらWAVE自体もそう凶暴にはならなかったでしょうし、ちりじりに逃げ出していれば団結の幻想は崩れ、メンバーはむしろ冷静になったかもしれません。

集団に対立集団はつきものであり、そこでの対応によって集団の性格が左右されるものだなと感じました。

クラスの受講者は普通の高校生

実習の単位を取るため適当にクラスを選んだ生徒がほとんどで、元々独裁に傾倒していた生徒はいないように見えました。

それでもWAVEの異常さに気付いたのは、はじめから明確な意志を持ってそれを拒絶したモナと、白シャツを着なかったことからグループをはじき出されたカロだけ。

自分が今どこに立っているのかを客観的に見るのは誰にとっても難しいことで、周囲の熱狂の中では人の判断は簡単に変わってしまいます。

自分は決して洗脳などされないという思い込みは、それ自体が危険なことなのだなと改めて思い知らされます。

とは言えのめり込み具合には個人差が

…と、つらつら書いては来ましたが…

WAVEのメンバー全員がティムのようにのめり込んでいたわけではありません。

中には最後まで「ちょっと面白いから」くらいの気分でただ白いシャツを着ていただけの生徒もいたでしょう。

わずか5日で全員が狂信者になってしまったような印象を受けますが、狂信的とまで言えるのは言動の目立つ数人だけのこと。

全メンバーを同じ目で見るのもまた間違った思い込みです。

物事を冷静に見るのは本当に難しいですね。

2021年1月現在、映画「The WAVE」を配信しているVODサービスはなく、DVDレンタルを利用するしかない状態です。

原作「The Wave」はアメリカのトッド・ストラッサーの作品ですが、日本語に翻訳されていないようです。

英語版KindleはAmazon.comで買えます。

 

気軽に読んだり観たりするのが難しい状況な「The WAVE」。

関連書籍には2020年刊行の本「ファシズムの教室」がありますが、もう読んでしまった方には「独裁の世界史」をおすすめします。

ローマ史好きなら知らぬ者はない本村 凌二氏の著作です。面白いですよ。