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Philippa Gregoryプランタジネット&チューダーシリーズ順序と主人公とレビュー

2022年10月18日

映画「ブーリン家の姉妹」の原作はフィリパ・グレゴリーの「The Other Boleyn Girl」です。(翻訳版タイトルは「ブーリン家の姉妹」)

実はこの「The Other Boleyn Girl」The Plantagenet and Tudor Novelsシリーズのうちのひとつで、シリーズは、ジャケッタの話からメアリー・スチュアートまでをカバーしています。

シリーズは全部で15作品。

これを時系列順に読むならどの順番になるのか。

それぞれの作品は誰の物語なのか。

やっと全作品を読み終わったので感想と一緒にまとめておきます。

※すべての作品は歴史的事実に基づいて実在の人物を描いていますが、創作要素をを多く含んだヒストリカル・フィクションです。

※以下に簡単なレビューとして内容と感想を書きましたが、ネタバレはしていません。一応フィクションなので。

フィリパ・グレゴリーのプランタジネット・チューダーシリーズ15作品を時代順に

15作品を作品の舞台となる年代順(not出版順)に並べると下のようになります

ただ、各作品はそれぞれ独立した内容です。年代順に読まないと分からない話というのはありませんでした。

興味のあるところから読み始めて問題なしです。どの本も分かりやすくシンプルな英語で書かれていてすらすら読めます。

1.The Lady of the Rivers:ジャケッタ

長大なシリーズのはじめは「The Lady of the Rivers」(日本語翻訳版はありません)

主人公はエリザベス・ウッドヴィルの母ジャケッタ・オブ・ラクセンバーグです。

物語はジャケッタがジャンヌ・ダルクと会うところから始まって、マーガレット・オブ・アンジュも登場します。

史実でも魔女と噂されていたジャケッタ。もちろん本物の魔女ではありませんが(笑)作中では魔術的なことをあれこれやっています。

2.The White Queen:エリザベス・ウッドヴィル

THE WHITE QUEEN」のタイトル通り2作品目は白薔薇の女王エリザベス・ウッドヴィルの物語です。(日本語翻訳版はありません)

薔薇戦争で赤薔薇のランカスター派に属していた未亡人エリザベスが、時の王、白薔薇ヨーク家のエドワード4世の心を射止めて王妃になる…という、それだけで充分ドラマティックな出来事がベースになっています。

どちらかというと悪女風に扱われることの多いエリザベス・ウッドヴィルですが、この作品では、国王と恋愛結婚して、政争に翻弄されながらも自分を見失うまいと強く生きた女性という印象です。

この「THE WHITE QUEEN」と次の「THE RED QUEEN」、次の次の「The Kingmaker’s Daughter」が、このドラマ↓の原作に当たります。

3.The Red Queen:マーガレット・ボーフォート

白薔薇の女王エリザベス・ウッドヴィルに呼応する赤薔薇の女王「THE RED QUEEN」とは、マーガレット・ボーフォートです。(日本語翻訳版はありません)

後にチューダー朝を打ち立てるヘンリー七世の母親で、「いつかヘンリーが王になる」と信じる世界でたった一人の人間です。ヘンリーの王位継承権はごく弱いもので、周囲はマーガレットの執念を笑っているのですが、マーガレットは動じません。

なんか…すごい女だ…という、そのままの感じのお話です。

※まずバラ戦争がわけわかんねぇ…という人は、先にばら戦争の解説本を読んでおくと楽です。

陶山昇平氏のこれ↓が分かりやすくておすすめです。

 

その他ばら戦争関連本についてはこちら↓に

4.The Kingmaker’s Daughter:アン・ネヴィル

キングメイカーとはエドワード4世を王位へと押し上げたウォリック伯。「THE KINGMAKER’S DAUGHTER」とは、その娘アン・ネヴィルのことです。(日本語翻訳版はありません)

はじめはランカスターの王太子エドワードに、エドワードの死後はヨークのリチャード三世に嫁ぐアンは、当時の貴族の娘の悲哀を象徴するような存在ですが、運命を受け入れながら、その運命の中での最善を尽くすアンの姿勢に共感を感じました。

また、この作品の中でのリチャードはよい人でよい夫です。

5.The White Princess:エリザベス・オブ・ヨーク

THE WHITE PRINCESS」はホワイトクイーンの娘、エリザベス・オブ・ヨークの物語です。(日本語翻訳版はありません)

赤薔薇と白薔薇の融合を目指した政略結婚でヘンリー7世と結婚して王妃になるエリザベス・オブ・ヨーク。夫婦仲がよかったのは史実通りみたいです。

小説「THE WHITE PRINCESS」では、死んだと思われていたロンドン塔の王子エドワード5世が実は逃げ延びていて、

↓この子です。

「我こそは真の王」として名乗り出るエピソードが語られます。(こういう名乗りを上げた人物がいたことは史実通りです)

本物のエドワードだとすればエリザベス・オブ・ヨークにとっては実の弟、同時に夫である国王ヘンリー7世の治世を揺るがす存在でもあり…というエリザベスの苦悩がこの作品の山場です。

ドラマ化されています↓

6.The Constant Princess:キャサリン・オブ・アラゴン

ヘンリー8世の時代に入りました。「THE CONSTANT PRINCESS」の主人公はヘンリー8世の最初の妻キャサリン・オブ・アラゴンです。(日本語翻訳版はありません)

注:どうしたわけかこの本は全く同じものが2種類の値段で売られています。中身は全部一緒なので必ずこのリンク(安いほう)から買ってください。

まだ少女の頃、スペインで両親がアルハンブラ宮殿を占領する頃からの物語なので、ヘンリー8世の前に結婚した最初の夫アーサー・チューダー王太子とのエピソードも多く語られます。

アーサー急死後、スペインに帰ることもできずに経済的に困窮する話や、父の死を受けて即位したヘンリー8世が白馬の王子さながらにキャサリンを貧困から戴冠へと導く話などなど、ドラマ「TUDORS」の前の時期のエピソードは新鮮でした。

繰り返し出てくるキャサリンの書簡がくどくて読み疲れしたのも事実ですが…。

この本とこれに続く「The King’s Curse」「Three Sisters, Three Queens」の3作品をまとめたドラマが作られています↓

7.The King’s Curse:マーガレット・ポール

シリーズ最高傑作の呼び声高い「THE KING’S CURSE」はマーガレット・ポールの物語です。(日本語翻訳版はありません)

マーガレット・ポールは、リチャード3世のダメな兄、エドワード4世の困った弟クラレンス公ジョージ・プランタジネットウォリック伯の娘イザベルの娘です。

幼いころに母は病死、父は(実兄に対する)謀反で刑死しているので、孤児として育ちますが、敬虔で慈悲深く教養高い女性でした。

王家との微妙な近しさがマーガレットの運命を難しくする展開はタイトル通り血縁の呪いのよう…

私は決して英語を読むのが早いほうではありません。でもこの本は半徹夜を含めて2日で読んじゃいました。おすすめです。

8.Three Sisters, Three Queens:キャサリン・オブ・アラゴン、メアリー(ヘンリーVIII妹)、マーガレット(ヘンリーVIII姉)

THREE SISTERS, THREE QUEENS」とは、キャサリン・オブ・アラゴンとヘンリー8世の姉と妹、つまり義理の姉妹のことです。(日本語翻訳版はありません)

ヘンリー8世の妃=イングランド王妃のキャサリン、ヘンリー8世の実姉マーガレット(スコットランド王の妻になった人)、実妹メアリー(フランスの老王に嫁ぎ、王の死後チャールズ・ブランドンと勝手に結婚してヘンリー8世を激怒させた人)で三姉妹、三クィーンと。

三姉妹の物語といってもマーガレットとメアリーはキャサリンから見ると小姑なわけで…必ずしも仲がいいわけではないというのは想像つくと思います。

また、小姑が二人いた場合、たいていどちらかは嫁と非常に不仲でもう一人は…というのも定番で…はい、はっきり言っちゃうとシリーズ中一番つまらないと思ったのがこれでした。

これを最初に読むのはお勧めしません。他を読む気がしなくなりそうに思うので。

9.The Other Boleyn Girl:メアリー・ブーリン、アン・ブーリン

アンとメアリーのブーリン姉妹のお話で、日本語版タイトルは「ブーリン家の姉妹」です。Kindle版は出ていません。

注:日本のアマゾンでは、この本は全く同じものが2種類の値段で売られています。中身は全部一緒なので必ずこのリンク(安いほう)から買ってください。

物語はアンの姉メアリーの視点で進行します。

映画よりもメアリー自身の結婚、再婚の話が多くの割合を占めていて、「ブーリン家のもう一人の娘」が自力で自由と幸せを掴もうと奮闘する姿を描いた作品です。

映画も同タイトル「ブーリン家の姉妹」です。TVドラマ版もあってこちらも「ブーリン家の姉妹

私は映画とTV版の両方見ました。映画は有名なので解説不要と思いますが、TVのほうも悪くありませんでした。

TV版では、メアリーとアンがそれぞれの立場から語る場面があったりと分かりやすいつくりになっています。

10.The Boleyn Inheritance:アン・オブ・クレーヴズ、キャサリン・ハワード、ジェーン・ブーリン

THE BOLEYN INHERITANCE」は、3人の女性がそれぞれ一人称で語る話で構成されています。

これもアマゾンでは2種類の値段で販売されています。同じ本なので買うならこのリンク(安いほう)からどうぞ。

日本語版は「ブーリン家の姉妹3 悪しき遺産

3人とは、ヘンリー8世の4番目の王妃アン・オブ・クレーブス、5番目の王妃キャサリン・ハワード、アン・ブーリンの兄嫁(未亡人)でキャサリンの侍女のジェーン・ブーリンです。

キャサリンとジェーンの背後でノーフォークが糸を引いている話なので、なにもアン・オブ・クレーヴスをここに混ぜなくてもよかったんじゃないかと思いながら読み始めたのですが、アンのキャサリン・ハワードとの関わり方は彼女の人柄をよく示しているものでもあり、宮廷から抜けたアンが最終的には自由で幸せな人生を手に入れるさまは、キャサリンとの対比によってより光ってくるので、これでよかったのかなと。

フィリパ・グレゴリーのプランタジネット・チューダーシリーズで最初に読んだのがこの本でした。

最初に読んだこれが面白い内容に読みやすい英文でサクサク行けたからこそ全巻を読むことができたと思います。

11.The Taming of the Queen:キャサリン・パー

THE TAMING QUEEN」はヘンリー8世の最後の王妃キャサリン・パーのお話です。(日本語翻訳版はありません)

キャサリン・パーの話というと、ヘンリーの死後、トーマス・シーモアと再婚してヘンリーの子エリザベスを引き取って暮らしていた頃のことのほうに興味のある人が多いように思いますが、この作品はヘンリー崩御で幕を閉じます。

※トマスとエリザベスの話はドラマ「Becoming Elizabeth エリザベス:女王への道」に出てきます。(フィリパ原作作品ではありません)

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小説「THE TAMING QUEEN」の中心になるのは、キャサリンが異端の疑いをかけられ逮捕寸前の危機に瀕しながらそこを乗り切るエピソードです。

これまで、キャサリンが持ち前の機転でそのピンチを切り抜けたという程度にしか聞いていなかった事件が、つぶさに語られるとすごく怖くて、プロ作家の手腕ってすごいなーとか妙に感心した一冊でした。

12.The Queen’s Fool:メアリー1世、エリザベス1世

THE QUEEN’S FOOL」は、ヘンリー8世の死後、王位がエドワード6世、メアリー1世、エリザベス1世と移り変わる時代の物語ですが、主人公は王族でも貴族でもない本屋の娘ハンナです。

日本語翻訳版は「ブーリン家の姉妹2 愛憎の王冠

ハンナには未来を予知する力があり、その能力のためにメアリーやエリザベスに雇われます。

当時はこういう職務内容の人も一種の道化(Fool)とされていたのですね。

ハンナが内心で信仰しているのはカソリックでもプロテスタントでもなくユダヤ教なのですが、もちろんそこは隠したまま、彼女はメアリーを敬いエリザベスを愛し、ロバート・ダドリーに恋心を抱きます。

エリザベス1世が重用していたとされる錬金術師ジョン・ディーや、ヘンリー8世時代から宮廷に仕えた道化師ウィル・ソマーズも登場して、飽きない作りでした。

ソマーズがとても良いです。とても。

13.The Virgin’s Lover:エリザベス1世、ロバート・ダドリー

タイトルから想像のつく通り「THE VIRGIN’S LOVER」はエリザベス1世の愛人とされるロバート・ダドリーの物語です。

翻訳版は「ブーリン家の姉妹3 宮廷の愛人

このシリーズはプランタジネット朝からチューダー朝までを扱っていますが、個々の作品世界はつながっていません。なので、この本には「The Queen’s Fool」のハンナは登場しません。

こちらは、エリザベスとの結婚を目論むロバート・ダドリーとロバートを排斥したい宮廷人たちの攻防のお話です。

ダドリーは、一本の作品の主人公として取り上げなければもったいない素材と思いますが、そのダドリーに人間的魅力を感じられなかったので、個人的にこれはあんまり…

14.The Last Tudor:ジェーン・グレイとその姉妹

最後のチューダー=「THE LAST TUDOR」は、九日間の女王ジェーン・グレイです。(日本語翻訳版はありません)

とは言え作品で扱われているのはジェーンとふたりの妹キャサリンとメアリーの3人です。

ジェーン・グレイは、アン・オブ・クレーブス同様、多くの関心を集めていているけれども資料が少ない人なんだろうな…と。

苦肉の策的な構成ではあるのですが、ジェーンの妹のことを全然知らなかったこともあって個人的には興味深く読みました。

15.The Other Queen:メアリー・スチュアート

プランタジネット・チューダーシリーズのラストを飾るのは「THE OTHER QUEEN」。メアリー・スチュアートの物語です。(日本語翻訳版はありません)

メアリーが主人公というわけでもなく…メアリー自身と、メアリーがイングランドへ逃げてきたときにエリザベスの命令で彼女を預かっていたシュールズベリー伯、その奥様のベスの3人が、それぞれの立場で語る形式です。

メアリー・スチュアートの一生の中ではドラマティックとは言えない時期…と言いますか、事態が膠着している時期の話なので、今一つ盛り上がりに欠けるのは否めませんが、メアリーがイングランドに逃げ込んだ後に民間人の家(もちろん貴族の邸ですが)に暮らしていたことや、預かった夫婦がその後どうなったかを全然知らなかったので、私にとっては面白い本でした。

作中にまだ8歳のアンソニー・バビントンが出てきて、子供の頃読んだ「時の旅人」をもう一度買って読んだりもしました。

改めて読むと、昔読んだときには気づかなかったことがたくさんあって、これもまた面白い体験でした。

プランタジネット・チューダーシリーズは以上です。好きなところから読んでいいと思いますが、読む順序をあえてご提案するとすれば、年代順に(上に並べた順に)読むか、中でも面白い「THE KING’S CURSE」「THE KINGMAKER’S DAUGHTER」からはじめるか…です。

フィリパ・グレゴリーの書く英文はとても読みやすいので、勉強中の人も臆せずトライしてみてください。シリーズ全巻を読み切るころには、英語を読むスピードがずっと上がっているのを実感できると思います。