ポップを病院へ運ぶアブディ
甥のエースがいなくなったのはアン・インガルス(アニー・ウィルクス)が殺したからですが、ポップはアブディが殺したのだと思い込んでいます。
拉致したアブディを椅子に縛り付け、エースの飼い犬をけしかけて死体の場所を聞き出そうとするポップでしたが、その尋問中に意識を失って倒れてしまいます。
アブディは椅子の上でもがき、なんとか拘束具をはずすと、壁の方へ駆けて行き、追って来た犬を金網の向こうへシャットアウトしました。
ポップをどうするのか。
先ほどまでの口論ではポップを殺してもおかしくないほどの憎しみを吐き出していたアブディですが、結局ポップを病院へ運びました。
ナディアが今も父のように慕っているポップを死なせるわけにはいかない。
それが理由でした。
ポップの記憶
ポップが倒れたのは脳卒中のためでした。
病院で意識を回復し、話もできますが、記憶は曖昧です。
「アブディに怪我はなかったか」とナディアに尋ねはしますが、なぜ怪我の心配をするのか自分でも分からないようです。
兄アブディと養父ポップの間で暴力を伴う争いごとがあったのは明らかですが、ポップの話は要領を得ず、アブディとは連絡のつかないナディアは、うんざりした様子です。
ここしばらくポップとアブディの不仲に悩んで来たナディアも疲れているのでしょう。
廃墟マーステン
死んだはずのエースが自分の周囲にいるのが見え、アンは困惑しています。
エースは死んでいなかったのか。
確かめずにはいられず、アンは建設現場へ戻って来ました。
エースの死体を隠した穴はコンクリートで固められていて、中を見ることはできません。
建設地の奥にあの廃屋が見えます。
「マーステン」と呼ばれる廃屋。
地下道から続く螺旋階段の先にあった、深夜に女が何かをしていたあの廃屋です。
アンはもう一度行ってみることにしました。
ドアの鍵は、ハサンがピッキングしたまま開いています。
※アブディの部下ハサンがマーステンに行くのは2話です。
荒れた邸宅のどこからか発せられる人の気配をたどると、男がひとり立っていました。
どろどろの粘液にまみれたその男は、テーブルの生卵を殻ごと噛み砕いて飲み込み、アンに気付くと、意味の分からない言葉で何かを言います。
ここで殺されたハサンでした。
幻覚を見たのか。ならばドクターH(ナディア)の薬は効いていない。
アンは憤慨し、ナディアに電話をかけます。
「ジェネリックを入れただけで薬剤の配分はアンの希望のとおりだ」というナディアの説明にも納得せず、アンは「毒を盛られて病状が悪化した」と考えます。
キャッスルレイクの自由
ジョイは、キャビンの子供たちと4人でキャッスルレイクへやって来ました。
町ではエースが殺され、死体はキャッスルレイクに捨てられたに違いないと噂になっています。
キャッスルレイクは不吉な湖として知られているのです。
1年前にはショーシャンク刑務所の所長があの湖の崖で自殺しました。
「エースの死体を探す」それが子供たちの目的です。
キングの「スタンドバイミー」でも子供たちは死体探しの旅に出ています。
小学生から死体を横取りする不良の中にエース・メリルという人物がいましたっけ。
エルサレムズロットの子供たちには、本気で死体を探すつもりなどありません。いつも通り遊んでいるだけ。
でもジョイは、家では決して口にできない汚い言葉を連発し、湖に飛び込み、つかの間の自由を満喫しました。
ジョイが十代の女の子らしく遊ぶのは初めてのことだったかもしれません。
アンは「すぐにここを出て他の町へ行く」と言っていますが、ジョイとチャンスの間には離れがたい絆が生まれつつあります。
アンの告白とジョイの決断
楽しいひとときから家に帰ると、そこは湖とは別世界。
アンが陰鬱を充満させた暗い家庭でした。
アンは無断で外出したジョイを叱ることもせず、エースを殺したこと、そのエースがまた現れたことを話します。
ジョイには意味が分かりません。
エースがまだ生きているなら、殺したというのはアンの妄想ということに…
これまでにも何度かこんなことはあったのでしょう。
その度ジョイは戸惑いながら母に合わせ、母をなだめ、落ち着くのを待っていたことでしょう。
でも今日は違いました。
人生が停止しているアンとは違い、ジョイは成長しています。
友人との時間を持ち、母の異常さを改めて思い知りもしたでしょう。
ジョイは、傍らに置かれた黒いケースから音もなく取り出した注射器を手の中に隠してアンをハグし、アンの背中にその薬剤を射ちました。
「それは緊急用なのに…」
アンの声には力がありません。
アンが発作を起こした時のために用意していた強力な鎮静剤でした。
血まみれのアン
ベッドで目覚めたアンは、両手をベッドに縛り付けられています。
おそらくこの措置は、以前から、アンの興奮が尋常でなくなった時にはこうすると決められていたものです。
「ほどいて」と懇願するアンにジョイは、「薬を飲まなければほどくことはできない」とにべもなく答え、アンの口に薬を放り込みます。
ちょっとミザリーを思い起こさせます。
ミザリーのアニー・ウィルクスは、薬を飲ませる立場でした。
ドクターHの薬を信用していないアンは、ジョイが部屋を出ると、口に入れていた薬を吐き出してしまいます。
サイドテーブルに薬を飲むためのグラスが置かれています。
アンは腕を伸ばしてそのグラスを取り、枕の下に入れると頭を叩きつけて割りました。
破片を口にくわえてロープを切ろうとする試みは何度も失敗し、瞬く間にアンは血まみれに…。
ジョイの父が追って来る?
「アン・インガルス」という女性看護師の情報がネット上に存在しないことに気付いたジョイは、アンに「何から逃げているの?」と問いただします。
「話してくれるまでロープをほどかない」と言われ、アンが語ったのはジョイの父親のことでした。
「子供はいらない」と言うのでジョイを連れて逃げたけれども、彼は今も追って来ているので逃げ続けなければならないのだと。
父は戦死した英雄だと聞かされてきたジョイは、本当の父は悪人で自分を好きでなかったと知って少なからずショックを受けたふうです。
でもね、どうせ嘘だよ。
ドクターHの訪問
その時玄関ドアをノックする音が聞こえて、ジョイはアンの寝室を出て行きます。
訪ねて来たのはドクターHでした。
昼間の電話でアンの様子がおかしかったので、気になって様子を見に来たのだそうですが、ナディアが心配しているのはアンよりもむしろジョイのほうでしょう。
ジョイは、「どうせなら精神科を紹介して欲しかった」と言い、ドアを閉めてしまいます。
よその大人と関わったことの少ないジョイには、ナディアの真意が分からないのか、分かったとしても頼る術を知らないのか。
今の状況を解決するには大人の介入が必要で、ナディアならうってつけでしたが、ジョイはそのチャンスをみずから締め出しました。
家を飛び出すジョイ
ジョイがナディアと話している間に、とうとうアンは片方のロープをちぎるのに成功しました。
そこへジョイが戻って来て、慌てたアンは、振り回すガラス片でジョイの腕を切ってしまいます。
ジョイは家を飛び出し、アンはもう片方のロープを切ってそれを追いますが、激しい雨の中、ジョイの姿は見えません。
その時、庭にシルクハットの男が現れました。
アンが時々見ている幻覚の男です。
「物語の結末を聞きたいかね?」
男はいつもアンにこう言います。
そして
「お前は彼女を殺す」