「路」(ルウ)~台湾エクスプレス~の原作小説あらすじ登場人物感想など
「路」は吉田修一の小説で、2012年刊行、現在は文庫化されています。
タイトル「路」は「ルウ」と中国語読みで。
台湾でも中国語版が読まれ、2020年5月にはNHKでドラマ化されました。
小説「路」のあらすじと感想など。
小説「路」(ルウ)の登場人物
※原作小説の登場人物です。(ドラマとちょっと違います)
台湾新幹線開通プロジェクト関連
多田春香(ただ-はるか)
大井物産入社4年目で台湾新幹線事業部の現地チームに抜擢された女性
学生時代から台湾が大好き
林 芳慧(リン-フォアンフォエ)
春香の同僚で友人。現地採用の台湾人女性
春香は小慧(シャオホエ)と呼ぶ
池上繁之(いけがみ-しげゆき)
春香の遠距離恋愛の彼。
日本在住のホテルマン。両親に紹介済み
エリック
春香が9年前に台湾旅行した時に案内してくれた大学生の青年。
エリックは英語名で春香は本名を知らない。
※台湾人は本名の他に英語名を持つ人が多い
山尾部長(やまお-ぶちょう)
台湾新幹線事業部部長。春香の上司
安西誠(あんざい-まこと)
春香の先輩社員。妻子持ちで台湾へは単身赴任
ユキ
安西の行きつけのスナック「クリスタル」の女の子。台湾人
ケビン
「クリスタル」のボーイ。ユキの弟(ママには内緒)
湾生
湾生=日本統治時代の台湾で生まれた日本人のことです。
葉山勝一郎(はやま-かついちろう)
大手熊井建設を定年退職したおじさん。
戦中に台湾で生まれ終戦で引き揚げて来た日本人(湾生)
葉山曜子(はやま-ようこ)
勝一郎の妻。
同じく湾生で勝一郎と幼馴染。
中野赴夫(なかの-ゆきお)=呂 耀宗(リョウ-ヤオツェン)
勝一郎、曜子の台湾時代の友人
台湾人(中野赴夫は日本名)
高雄
陳 威志(チェン-ウェイズー)
兵役までの期間をバイトで暮らす青年
張 美青(デャン-メイチン)
威志(ウェイズ―)の幼馴染の女性
カナダの大学に留学中
小説「路(ルウ)」のあらすじ-ネタバレ無し版
※原作のあらすじです。ドラマはちょっと違います。
台湾の高速鉄道
春香にはもう一度会いたい人がいます。
9年前に台湾で会った大学生のエリックです。
エリックは春香に連絡先のメモを渡し、春香は地元神戸に着いたらすぐに電話しようと決めて飛行機に乗りますが、そのメモを紛失してしまいます。
その後台湾新幹線プロジェクトに抜擢された春香は台北で暮らすようになりますが、エリックとの再会は叶わぬままです。
春香の仕事は忙しく、元々手掛かりの少ないエリックを探すこともままなりません。
東京には繁之という恋人もいて、エリックに会えたとしてもそれでどうなるものでもありません。
現地に馴染み、台湾での生活を楽しんでいる春香に対して、生真面目で融通の利かないタイプの安西は、スケジュール通りに進捗しないプロジェクトに苛立ち、台湾をあまり好きでなくなっているようです。
台湾高速鉄道の開通は予定よりも大幅に遅れています。
湾生 勝一郎
東京では、湾生同士で結婚した葉山夫妻が老境を迎えています。
台湾に新幹線が走るというニュースを聞いた勝一郎が入院中の曜子に「行ってみるか」と提案すると、曜子は「開通は5年も先でしょう」と気のない返事。
まるで開通する頃には自分はいないと知っているような妻の様子に感傷的になった勝一郎は、台湾時代の友人、中野赴夫を思い出しています。
実は勝一郎は引き上げ後一度も台湾を訪れたことがなく、中野とは手紙のやり取りすらしていません。
高雄のモラトリアム青年
学生時代に夜遊びしつくし、遊びに飽きた元非行少年威志(ウェイズー)も間もなく1年10か月の兵役です。
たまには顔を出すかと祖母の家を訪ねる途中で威志に声を掛けて来たのは美青(メイチン)でした。
子供の頃はいつも一緒に遊んでいたのに成長するにつれ疎遠になった美青は、留学先のカナダから帰省していたのでした。
ふたりの視線の先に建設中の工場が見えます。
ここを通る予定の新幹線の整備工場でした。
「路ルウ」原作ネタバレ それぞれ最後はこうなります
春香とエリックと繁之
安西
威志(ウェイズー)
台湾高速鉄道
2007年1月に開通。
今日も台北から高雄まで90分で走っています。
「路ルウ」原作の感想など
台湾新幹線の話がメインかと思っていたら違いました。
(「下町ロケット」だとかああいう系かと想像していたのです。大きな仕事に挑戦する中で起きるトラブルとその解決を中心にしたような話かと)
台湾高速鉄道に日本の新幹線が採用されると決まってから、開通するまでの7年間の物語ですが、新幹線の話題は少なく、台湾と台湾に縁のある日本人を描いた作品です。
勝一郎と中野のエピソードが一番心に残りました。
最期を台湾で過ごすのをすすめる中野の言葉に、彼らの生きた歴史の激しさ、複雑さが集約されていると思います。
私には、あんなことを言える相手はいませんし、言う状況も想像できません。
読みながら「3分の2くらいの長さで出来る話なんじゃないかなー」と感じたりもしたのですが、このゆったりペースも台湾の空気を表現しているのかなと思って、のんびり気分に切り換えてからは快適に読めました。
よく考えて見れば本読む側が急ぐ必要なんてないわけで。
知らず知らずにゆったりマインドを失っている自分に意外なところで気付く、貴重な体験をしました。
ガシュマル並木の通りや次々出て来るおいしそうな食べ物、人のおおらかさ、家族の関係など、台湾の魅力がたくさん詰まった小説で、読後は台湾への親しみが増した気持ちになれる本です。
手元の文庫の帯載せときますね。(2020年に売られている文庫の帯は違うものです)
裏
ここにはさまざまな人間が登場する。それぞれのドラマが克明に描かれていくから目が離せない。彼らの人生をともに生きることになるのだ。それだけでも十分なのだが、それらがうねるように合流していくのである。愛があり友情があり青春がある。家族がいて恋人がいて職場の友がいる。希望があり悔恨があり懺悔がある。7年間の物語のなかに人間の営みのすべてがある。北上次郎