「ヒトラーの忘れもの」あらすじ感想とドイツ少年兵地雷除去の周辺事情など
デンマークの映画「ヒトラーの忘れもの」(2015年)のあらすじ感想など。
監督脚本のマーチン・サントフリートは、浅野忠信出演の映画アウトサイダーを監督した人です。
Contents
「ヒトラーの忘れもの」の登場人物
ラスムスン軍曹
演:ローラン・ムラ
砂浜の地雷を除去するドイツ兵の管理監督者
エペ大尉
演:ミゲル・ボー・フルスゴー
工兵部隊の大尉。
「工兵」って何さと調べてみましたところ、土木技術に特化した部隊で、要塞を築いたりするだけでなく、地雷の設置もこの部隊の仕事ということらしいです。
ドイツ人少年兵
終戦時デンマークにいたドイツ兵は大半がドイツへ移送されましたが、一部残された兵士がいたそうで、少年兵たちは帰れなかった捕虜です。
詳しくは後述
「ヒトラーの忘れもの」あらすじをネタバレなしで
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第2次世界大戦後のデンマーク。
デンマークの西海岸は砂浜が続いています。
戦中にはナチスがその砂浜に大量の地雷を埋め込みました。
連合国側が海を渡ってデンマーク経由でドイツへ入るのを恐れてのことです。
捕虜となった兵士がその地雷を除去する作業にあたることになりますが、集まった捕虜は全員少年兵で、地雷に関する知識もありません。
少年兵たちは、砂浜に這いつくばって地雷を探し、探し当てると、その場で地雷を分解する危険な任務をこなさなければなりません。
夜は、海辺の小屋に押し込まれて眠ります。
監督するラスムスン軍曹は、ドイツを強く憎んでいるふうで、少年たちは食事を与えられないまま危険な労働に従事しています。
空腹に耐えかねた少年兵の一人が深夜に抜け出し、近くの家の家畜小屋から餌を盗んできました。
不衛生なえさを食べ、食中毒が発生すると、家畜小屋の女は「いい気味だ」と笑います。
作業中の事故もすぐに起こります。
今日はウィルヘルムが両手を失いました。
戦争は終わっているのに家に帰れず命の危険のある任務を強要される少年たちから見れば、ラスムスンこそ残酷な暴君でしょう。
でもこの頃から、ラスムスンの態度が変わっていきます。
「ヒトラーの忘れもの」の感想など ※ネタバレしています
ラスムスン、エペ大尉や海辺の家の女性の態度から、デンマークにはドイツを憎む心があることは分かるのですが、どうしてなのかがよく分からず、映画を見終わってから調べて分かりました。
先に調べるべきでした(笑)
感想と合わせて、調べて分かったことを書いておきます。
第二次世界大戦とデンマーク
第2次世界大戦の時、デンマークがどうなっていたのかよく知りませんでした。
デンマークは中立の立場を望んでいましたが、ノルウェーへ進出したいナチスは足掛かりとしてデンマークを利用。
「モデル保護国」という名目でコントロール下におき、1943年にはナチスの政権下においた…と。
それでドイツ兵がデンマークにいたのですね。
参考:Wikipediaのデンマークの歴史、Wikipediaのデンマーク侵攻
戦後も帰国できないドイツ兵の存在
映画の公式サイトによると、デンマークにいたドイツ兵の扱いはイギリスが指揮することになり、ドイツの降伏から1ヶ月程度の間に19万人の兵士がドイツへ移送されたそうです。
映画冒頭で長い隊列を組んで歩いているドイツ兵がこれなのだと思います。
でも約1万人の兵士は、デンマークに残されます。
使役のためでしょう。
デンマークに駐在していた兵士は、大戦末期の徴兵年齢引き下げ後に徴兵された者が多かったので、デンマークのドイツ兵には少年が多く含まれていたのです。
捕虜に地雷除去をさせるのは国際法違反ではないのか
これも疑問でした。
捕虜に危険な作業を強制することは禁じられているはずでは?
でもデンマークに取り残されたドイツ兵は、ジュネーブ条約に定められた捕虜に該当しないのです。
デンマークはドイツの対戦国だったわけではありません。あくまでドイツの保護国でした。
法の隙を突く措置でした。
ラスムスン軍曹の変化
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— ヒトラーの忘れもの (@hitler_movie) January 24, 2017
ラスムスンのベレーと徽章はイギリス軍のものですよね。
当時、地雷除去を担当していたデンマーク人は、戦中イギリスで対ドイツの戦いに備えた訓練を受けていた者たちだったそうです。
公式サイトの情報ですが。
となると、ラスムスンは元々ドイツに対して相当な悪感情を持っていた可能性が高いでしょう。
そのラスムスンにしても、地雷の除去をさせるのが専門知識もない少年だとは思っていなかったふうです。
身近で少年たちがひどい怪我をしたり、飢えや病に苦しんだりするのを見ているうちに心を痛めるようになり、次第に軟化していきます。
地雷除去が順調に進み、ラスムスンが少年たちとビーチでサッカーをする場面は、感動的ですが、どこか不安な気持ちにもさせます。
ガラスの友情に見えて。
国と国とが敵対した記憶はそう生易しいものではなく、友好状態は危ういバランスをなんとか保っているのが実情でしょう。
わずかなきっかけで心にしまい込んだ憎しみが甦り、また新たな憎しみを生み出してしまう事態は、現在でも起きていることと思います。
飼い犬が残っていた地雷を踏んで死ぬとラスムスンはまた態度を変え、少年たちを虐待しはじめます。
ラスムスンには、許して「やった」のに…という気持ちがあったように見えます。
でも、何を許すというのでしょう。
この少年兵たちが何をしたと?
一兵卒が戦争の罪に対する許しを乞う必要が?
物語にはラスムスンの過去は出てきません。
彼にもドイツを憎悪するだけの体験がきっとあったでしょう。
でもそれは究極的には誰にも償えないもので、今ここにいる子供たちに恨みをぶつけてどうなるものでもありません。
ラスムスンは今の自分を許せるのでしょうか。
ようやく砂浜の地雷除去が終わり、家に帰ったら何をするか相談し始める頃、最後の悲劇が起きます。
残った少年兵は4人だけ。
そしてその4人も「地雷除去の経験者」として他の地雷原へ連れていかれてしまいます。
ドイツへ帰す約束は嘘になりました。
ラスムスンは、4人を車で国境近くまで運び、走れと命じます。
事態が飲み込めず戸惑いながら駆けだす少年兵たちが何度もラスムスンを振り返り、やがて国境の向こうへ消えました。
ラスムスンはこの時自分の心に巣食う憎しみを手離したのだと、私にはそう見えました。
彼はあれからどうなったのか。
軍法会議は免れないでしょう。
軍の命令に背くことは、命を捨てる覚悟があってすることです。
それでも、人の作って来た、たぶんこれからも繰り返される愚かな歴史の中で、ひとりの軍曹の心が救われたならいいなと思います。