ドラマ「ローマ」プッロとヴォレヌスの行為とその結果を比較考察
大河ドラマとメロドラマとバディもの(コンビが登場する作品)ドラマを同時に見られるHBOドラマ「ローマ」
バディものパートは、生真面目なヴォレヌスと型破りなプッロのふたりの兵士の友情をベースに進行します。
Contents
- 1 実在したヴォレヌスとプッロ
- 2 ドラマ「ROMA」の中のヴォレヌスとプッロをふりかえる
- 3 プッロ ガリア戦争前線で自軍隊長ヴォレヌスを殴打
- 4 プッロ 交代の番の途中で寝込む
- 5 プッロ 酒場で人殺して頭から流血。ヴォレヌス宅へ
- 6 プッロ 賽を投げさせる
- 7 プッロ ポンペイウス隊を急襲
- 8 プッロ ポンペイウスの金貨を着服
- 9 プッロ ヴォレヌスの少年奴隷を殺す
- 10 プッロ 殺人罪で死刑に
- 11 ヴォレヌス 勝手に除隊
- 12 ヴォレヌス エラステスの命令を聞かずに帰る
- 13 ヴォレヌス エラステスの手下を殴る
- 14 ヴォレヌス ニオベを責め子供たちを呪う
- 15 ヴォレヌス エラステス一家を皆殺しに
- 16 ヴォレヌス 冥界の王の子デビュー
- 17 ヴォレヌス 暴君化?
- 18 ヴォレヌス ヴォレナを殺しかける
- 19 プッロとヴォレヌス
実在したヴォレヌスとプッロ
私はヴォレヌスとプッロはドラマの創作した人物だと思っていたのですが、実在の軍人なのですね。
カエサルの書いた「ガリア戦記」に二人の名前が出てくるそうなので、読んでみました。
まず「ガリア戦記」が普通に買って読めるということが驚きでした(笑)
ふたりのエピソードを要約すると
史実ではプッロもヴォレヌスと同じ百人隊長で上級百人隊長の座を争うライバルでした。
ネルウィイ族との闘いのさなか、プッロが「今日こそ(ふたりの)勝負をつけよう」とヴォレヌスをあおりながら突撃。ヴォレヌスも続きます。
プッロが投げやりを浴びて敵に包囲されるとヴォレヌスが援護に走り、抜き身の突進で敵を蹴散らしますが、勢い余って窪地に転落してしまいます。
ヴォレヌスのほうへ殺到する敵をプッロが倒し、カエサルの軍は大盛り上がりに。
という爽快なお話でした。
…で、この場合どちらが筆頭百人隊長に…?
どちらがより勇敢であるかを断じることはできなかった。
出世争いはイーブンのままだった様子(笑)
新訳のガリア戦記はとても読みやすくて面白いです。
※新訳ガリア戦記内ではヴォレヌスは「ウォレヌス」と表記されています。
ドラマ「ROMA」の中のヴォレヌスとプッロをふりかえる
一見、次々にトラブルを起こすプッロがヴォレヌスを困らせてばかりいるように見えますが、融通の利かない堅物ヴォレヌスの起こす問題は深刻な事態を招きやすく、こっちはこっちでかなり…
それぞれの行為と結果をまとめてみました。
プッロ ガリア戦争前線で自軍隊長ヴォレヌスを殴打
ローマ前編1話「失われた鷲」
ヴォレヌスは誉れ高いローマ13軍団の100人隊長。
プッロはその隊員。
ガリア戦争前線で隊列を組んでいるが、血気盛んなプッロは攻撃命令を待ちきれず、列を飛び出して戦闘を始め、注意するヴォレヌスを殴る。
勝ったからまあいいけどさ。
ヴォレヌスの対応
ムチ打ち後収檻。その後、生きて帰れる見込みのない任務に同行させる
行為の結果
コンビ誕生
プッロ 交代の番の途中で寝込む
ローマ前編1話「失われた鷲」
ローマ軍団のシンボルである鷲の徽章が盗まれ、アントニウスはヴォレヌスに探し出すよう命じる。
見つかるはずがなく、命令を受けた自分は死刑になる運命と考えたヴォレヌスは、鷲探しにプッロを同行させる。
人選の理由は、どうせプッロは死刑だから。
野宿することになり、ヴォレヌスは「月が真上に上がったら起こせ」と言って眠る。
交代で番をするはずがプッロは寝込み、気づくと馬が盗まれている。
ヴォレヌスはまだプッロを分かっていなかったね…
ヴォレヌスの対応
プッロの寝過ごしをカバーする対応は何もしていないが、運に恵まれ、ワシ奪還に成功する。
行為の結果
後のローマ帝国初代皇帝救出
通りかかった一団から馬を奪おうとすると、偶然にもそれは鷲を盗んだ者たちだった。
鷲泥棒にさらわれていたオクタヴィアヌスの救出にも成り行きで成功し、この時から始まったオクタヴィアヌスとの関係が後に大きな鍵になる。
※喪失したワシの徽章と取り戻そうと紛失時の隊長の息子が奮闘する映画が「第9軍団のワシ」です。
マルクス・アウレリウス・アントニヌスの時代の話で、軍団1個(5000人)がブリタニアのハドリアヌス長城付近で忽然と消えたのは実話です。
プッロ 酒場で人殺して頭から流血。ヴォレヌス宅へ
ローマ前編2話「ルビコン渡河」
サイコロ賭博でイカサマされたのを怒って乱闘。
頭に大けがしてヴォレヌス宅に逃げ込む。
回復は早い。
あの状況で上司の家に逃げ込むこの心臓…
ヴォレヌスの対応
医師を呼んで治療。
ニオべはプッロを歓迎していない態度だが、ヴォレヌスは「プッロが回復するまで家に置く」と言う。
行為の結果
プッロは、ルキウスとニオベの夫婦仲が難しい状況になっていることを知る。
プッロ 賽を投げさせる
カエサル派のアントニウスが13軍団を従えて元老院へ向かう途中、賭博乱闘現場にいた男(仲間をプッロに殺された男)がプッロを襲おうと飛び出してくる。
プッロはその男を殺し、ここでも大乱闘になるが、人々はポンペイウスがアントニウスを襲撃したものと誤解する。
これをきっかけにカエサルはポンペイウスとの戦闘を決意、ルビコン河を渡る。
乱闘の原因はケンカの仕返しで標的は自分だったことを言い出せずにいたプッロは、最初に敵を倒した英雄と勘違いされ、カエサルから報奨金を受ける。
賭けの負け分より儲かった。
ヴォレヌスの対応
元老院前の混乱で受けた打撃で気を失っているうちに、隊の荷車に乗せられて戦場へ向かう。
反乱軍の一員になるつもりはなかったが、目覚めた時には川の上。賽は投げられていた。
元老院前の騒動はプッロへの復讐だったと分かっているものの、さすがに言い出せる空気ではない。
行為の結果
世界史の教科書に載る大事件。
遅かれ早かれ起きた戦争なのでプッロはきっかけになっただけではあるけれども…
プッロ ポンペイウス隊を急襲
ローマ前編3話「ローマ入城前夜」
偵察の途中でポンペイウス隊の斥候を見かけると、ヴォレヌスの制止を聞かず飛び出して攻撃。
扇動される隊員もたいがいだわ。
ヴォレヌスの対応
扇動されて突っ込む隊員を止められない。
行為の結果
この襲撃によりポンペイウスはカエサルの部隊の機動力を恐れることになり、ローマから撤退する。
プッロ ポンペイウスの金貨を着服
ローマ前編第4話「休戦の使者」
任務の途中でポンペイウスの金を盗んだ男たちと会い、戦闘になると、金貨を積む荷車を引いていた水牛が勝手に歩きだしてどこかへ行ってしまう。
ヴォレヌスは荷車に興味がなく、任務遂行の旅を続行するが、プッロは荷車につながれていた女の子を目当てに単身で車を探しに行き、思いがけず山のような金貨を発見。
着服して山分けしようとヴォレヌスの家を訪ねる。
ヴォレヌスの対応
金を返すよう説得する。
返却先はポンペイウスではなくカエサル。
行為の結果
黄金はカエサルのものになり、内乱は俄然カエサル有利に。
ふたりがカエサルの信用を得たことは言うまでもない。
プッロ ヴォレヌスの少年奴隷を殺す
ローマ前編第10話「凱旋式」
エイレネに結婚を申込もうとした矢先、彼女がヴォレヌス宅の少年奴隷と夫婦同然の仲だったことを知ると激高して少年奴隷を殺す。
ふたりの奴隷はプッロの気持ちに気付いていなかったの?
ヴォレヌスの対応
絶縁
行為の結果
プッロは荒れ、殺し屋になる。
プッロ 殺人罪で死刑に
ローマ前編第11話「第十三軍団の栄光」
身を持ち崩して殺し屋になり逮捕死刑。
無気力なまま刑の執行を受けようとするが、13軍団をあしざまに言われると発奮して処刑人に立ち向かう。
次々処刑人を殺すプッロだったが、ラスボス風の執行人の一撃で昏倒、絶体絶命。
ローマの処刑って執行人も命懸けなの?
ヴォレヌスの対応
堪え切れず飛び出し、死刑執行人を倒してプッロを救う。
行為の結果
本来はふたりとも死刑になるところだが、ヴォレヌスとプッロはローマで大変な人気だったためカエサルは不問に付す。
ヴォレヌス 勝手に除隊
ローマ前編第3話「ローマ入城前夜」
カエサルが反乱を起こしたことを許せないヴォレヌスは、宣戦布告状をローマに運ぶという指令には従うが、その仕事を終えると無断で隊を抜け帰ってしまう。
心情は分かるけど、退職願とか出さなくていいの?
プッロの対応
引き留めようとするがヴォレヌスが聞き入れるはずもなく…
まあいいかと途中に置いてきたエイレネを探しに行く。
行為の結果
家計の困窮
ヴォレヌス エラステスの命令を聞かずに帰る
ローマ前編第5話「アティアの姦計」
ガリアで手に入れた奴隷が病死して売れず、金に困ったヴォレヌスはエラステスの用心棒になるが、借金の取り立てで債務者を殺せと命じられ断って帰る。
これも理解できるけど…ここを切り抜けるには一休さんばりのトンチが必要か。
行為の結果
アントニウスの隊に復帰せざるを得なくなるが、俸給は値切られる。
ヴォレヌス エラステスの手下を殴る
ローマ前編第9話「凌辱」
肉屋の仕事を手伝っていると、店の前で借金取りが債務者らしき男を締め上げはじめる。
ヴォレヌスは止めに入り借金取りを殴るが、それはエラストスの手下だった。
恥をかかされたエラステスは謝罪を迫り、ヴォレヌス宅へ乗り込んでくる。
分かる。分かるけどさ…正義を貫くのはこんなにも難しいという好例。
プッロの対応
刃物を研いでスタンバイ
行為の結果
エラストスのヴォレヌス宅乗り込みは、カエサルが一足先に訪ねてきていたことで中止になる。
そりゃカエサル居たら帰るしかないね(笑)
カエサルが来たのは、ヴォレヌスを政務官に推すため。
近所でヴォレヌスの評判を聞いたと言っているので、もしかするとエラステス手下騒動で見せた勇敢さが噂されていたかも。
ヴォレヌス ニオベを責め子供たちを呪う
ローマ前編第12話「カエサル暗殺」~後編第1話「遺言」
カエサル暗殺の決行日、セルウィリアは、護衛役のヴォレヌスをカエサルから引き離そうと、子供ルキウスはニオベが産んだ不貞の子だと知らせる。
ヴォレヌスに問い詰められたニオベは事実を告白し、デッキから飛び降りて死んでしまう。
そこへ子供たちが帰り、ヴォレヌスは、全員を呪うと言い残して家を出て行く。
ニオベの不倫だけでなく、子供やリュデが自分をだましていたことまで一緒に知ったわけで、円満解決は難しい状況ではある。
プッロの対応
死なせた奴隷のお墓参りに行っていて不在だった。
行為の結果
ヴォレヌスの留守中にエラステスが家に押し入り、子供たちとリュデを連れ去る。
ヴォレヌス エラステス一家を皆殺しに
ローマ後編第2話「表と裏」
エラステスが家族を拉致したと知ったヴォレヌスは、一派全員を殺す。
ヴォレヌス・プッロコンビが強すぎるのか、エラステス組が弱いのか…
プッロの対応
手伝う
行為の結果
町を仕切っていたエラステスらが消えたことでアヴェンティヌスは逆に無秩序な状態に。
※ここの場面は映画「テルマエ・ロマエ」のセットを流用したものです。
ヴォレヌス 冥界の王の子デビュー
アントニウスの命令でアヴェンティヌスの組合を治めることになったヴォレヌスは、抗争中のリーダーたちの話し合いの場で融合の女神像を叩き壊し、「私は冥界の王の子だ」と名乗る。
今ヴォレヌスの心は「神も仏もない」という状態になっているのでしょう。
ローマには元々仏はないか。
プッロの対応
ひく
行為の結果
メッミオらごろつきどもは、さすがにビビってヴォレヌスに従う。
ヴォレヌス 暴君化?
エラステスのいとこが、「息子を辱めた奴に罰を与えて欲しい」と陳情に来るが、ヴォレヌスは聞く耳を持たず、退ける。
陳情の内容は、息子がわいせつ行為をさせられたというものではあるが、金を受け取ってもいる。
ヴォレヌスの「それは仕事をしただけだ」という理屈は、まあ間違ってはいないが、子供をそそのかされた陳情者の心境を酌むところがない。
軍隊ならすべて軍規に沿って判定するのが最良の策だろうけど、ここは軍じゃなくて、ルールを知る者、知らない者、ルールに従っているつもりで違反している者、ルールを無視する者が混在する社会だからね…。
プッロの対応
軽い罰を与えてはどうかと進言する。
ヴォレヌスは、「人前で意見するな」と怒る。
行為の結果
公式の刑罰が下されなかったために私刑の応酬に発展する。
ヴォレヌス ヴォレナを殺しかける
ヴォレナがメッミオの手下に手なづけられ、ヴォレヌスの情報をスパイしていたことを知ったヴォレヌスは激怒し、口論の末ヴォレナの首を絞めようとする。
これも気持ちは分かるけど…
子供たちは、ルキウスがニオベを殺したと思い込んでいるのに、ここでヴォレナを殺そうとしたらますます…
プッロの対応
制止する。
プッロがいなかったら危ないとこだった。
行為の結果
ヴォレヌスは家族と離れ、アントニウスについてエジプトへ行くことに。
プッロとヴォレヌス
前編ではプッロが次々にやらかしますが、後編に入るとプッロはまったく問題を起こしません。
逆にヴォレヌスをなだめサポートする立場に変わります。
ヴォレヌスから引き継いだ組合の仕事も、案外うまくやっています。
プッロは、不良少年から度量の大きい大人へと成長する理想的な歳の重ね方をしているように見えます。
対するヴォレヌスはと言うと、なんとも不遇です。
ヴォレヌスには弁護のしようのない失敗はありません。
ヴォレヌスは常に正しいのです。
でもその正しさが事態を悪化させてしまうのです。
人の社会って本当に難しいです。
ヴォレヌスの人生最大のターニングポイントは、妻ニオベの死でしたが、明かされたニオベの秘密はあまりに重く、腹を立てない方がおかしい場面と言えるでしょう。
一方のプッロは、エイレネの彼氏だった奴隷を殺しています。
それほどのことがありながらエイレネと結婚したプッロに比べて、不倫の子を孫とだまされていた、言わば被害者のはずのヴォレヌスが家族に憎まれ、一緒に暮らすことすらできなくなってしまうとは…。
おおらかで周囲にくつろぎをもたらすプッロとは対照的に、ヴォレヌスには物事を白か黒かとジャッジせずにはいられないふうな窮屈さがあるのも事実です。
しかしその性格は軍隊には適合性が高く、軍人ヴォレヌスは、評価され頼られ信頼されています。
あの狂乱のアレクサンドリアで、たった一人自分を見失わずにいた強さ。
何者にもへつらうことのない高潔さ。
頑固なまでに職務を全うする責任感。
ヴォレヌスのそうした性質がなければカエサリオンは助からなかったでしょう。
そして、アウグストゥスのプッロへの無条件の信用が、カエサリオンの捜索を阻止しました。
史実ではアウグストゥスに殺されるカエサリオンがヴォレヌスとプッロによって生かされる、この結末が私はとても好きです。