「ロード・オブ・ボクサー」あらすじ感想 元チャンピオンの言う「強くなった」とは
映画「ロード・オブ・ボクサー」は、防衛を果たしたチャンピオンが、パンチドランカーになってしまうお話です。
パディ・コンシダインが監督・脚本・主演を兼任。
ストーリーはシンプルで登場人物も少なく見やすい作りの映画です。
Contents
ロード・オブ・ボクサーの登場人物
マティ・バートン(パディ・コンシダイン)
主人公。WBOミドル級チャンピオン
美しい妻(エマ)と生まれたばかりの子(ミア)がいる
エマ・バートン(ジョディ・ウィッテカー)
マティの妻
ミア
マティとエマの娘。1歳くらいか
リッチーとジャッキー(トニー・ピッツとポール・ポップルウェル)
マティのセコンド
アンドレ(アンソニー・ウェルシュ)
ミドル級ボクサー。マティの挑戦者
ロード・オブ・ボクサーのあらすじ
唯一無二のチャンピオン マティ・バートン
ミドル級チャンピオン、マティー・バートンは、若いアンドレの挑戦を受けることになっています。
挑戦者アンドレは、「マティは不戦勝で防衛した偽物のチャンピオンだ」と噛みつかんばかりですが、それを紳士的にかわすマティには、王者の余裕に満ち溢れています。
そろそろ引退を考えておかしくない年齢に見えるマティに対し、アグレッシブな挑戦者アンドレは、ゆうに10歳は若く見えます。
防衛戦は最終12ラウンドまでもつれ込み、判定は僅差でマティの勝利となりました。
防衛に成功たマティ・バートンの喜びの場面ですが、奥さんの姿が見えません。
妻エマは自宅です。
帰宅したマティの顔を見て、勝利を知ったようです。怖くて試合を見られなかったのでしょう。
実はマティは、この試合を最後に引退すると決めていました。
12ラウンドを戦い抜き、王者のままリングを去る。理想の引退が実現するはずだったのです。
なのに運命はマティに安らぎを許してはくれませんでした。
その夜、マティ・バートンは倒れ、脳と身体の機能を大きく損ねます。
パンチドランカー
倒れてからのマティに以前の面影はなく、認知症のような症状が続きます。
自分の子ミアが誰なのか分からず、お茶を入れることすらできません。
いつもぼんやりしていますが思い通りにならないとエマを殴ることも。
エマは、根気よくマティの世話をしますが、ある日とうとう耐えられなくなります。
マティがミアを乾燥機に閉じ込めていまったのです。泣き続けるミアをうるさいと思ったのでしょう。
マティを責めても自分のしたことが分かる状態ではなく、どうにもなりません。
エマはミアを連れて家を出てしまいます。
ひとりになったマティは、チャンピオンベルトを抱えてふらふらと出かけると川へ身を投げます。
救出されたマティが、リッチーとジャッキーに言ったのは
「水の中でエマを見た」
この日から、一層熱心なリハビリがはじまります。
ある日、最後の挑戦者アンドレがマティの自宅を訪ねてきます。
アンドレは、マティに働いた無礼を後悔していると言い、こうなったのは自分のせいだと言いますが、マティは何の話か分からないような表情です。
久しぶりに電話をかけてきたエマにマティは「帰ってきてくれ。僕は強くなったんだ」と話します。
「ロード・オブ・ボクサー」の感想
チャンピオンのすべてがあまりに突然に変わってしまいます。
マティ自身は、自分が思うように動けないことを自覚しているはずですが、切迫感はありません。
事態の深刻さが理解できないふうです。
このままではいけないと感じるのは、エマが出て行った時です。
その後のリハビリの効果は高く、マティは回復していきます。
パンチドランカーがこうした経過をたどることがあるのかどうか私には分かりませんが、本人の意識によってリハビリの効果が大きく変わるとは聞いたことがあります。
アンドレがマティに会いに来た時、アンドレはマティに謝りますがマティは何も言いません。
よく思い出せないような雰囲気です。
もしもマティが今もボクサーの誇りを捨てていないなら、ルールの範疇で受けた打撃に不平を言うことはないはず。
王者にふさわしい言葉を言って欲しいところですが、この時にはまだ分からないようでした。
その後、エマからの電話にマティは「自分は強くなった」と言います。
チャンピオンだった男の言う「強くなった」という言葉には深みがあります。
変わってしまった自分を受け入れる強さ、自分自身に耐える強さ、自分を晒す強さ。
つまり、弱さを認める勇気、弱さと共存する強さのことを言っているのかなと思います。
リングの王者マティ・バートンは今新しい強さを身につけようとしています。
回復を祝うパーティでマティは、アンドレのこともボクシングのことも恨んでいないと、はっきりそう言います。
これでこそチャンピオン。
誰の人生にも、運命が変わってしまう出来事はあり、そのきっかけになる人物がいることでしょう。
恨みや後悔にさいなまれることも。
それを乗り越え、「何一つ恨んでいない。すべてに感謝している」と言えることこそが、人の一生の目標なのかもしれません。
…というようなことを思い、奥さんが出ていこうが帰って来ようがどうでもいい感じで見ていた私は、たぶん製作者の意図とは違うイヤな視聴者なんだろうな(笑)
パンチドランカーに関係する映画「コンカッション」
パンチドランクは、ボクサー脳症とも呼ばれ、格闘技の選手に特有の疾患のように思われていた時期もありましたが、アメフト出身者など、多くの競技の選手が同様の経過をたどることが分かっている現在は、CTE(慢性外傷性脳症)という名称が一般的です。
パンチドランカーについてはこちらに
ボクサー脳症から慢性外傷性脳症へ スポーツとCTEの歴史
CTEとアメフトの関連性を発見したアメリカの医師がその認識を広めるまでの苦難を描いた映画「コンカッション」を見ると、パンチドランカーの脳で何が起きているのか分かります。