映画「湿地」(アイスランド2006)のあらすじ登場人物相関図感想など
「湿地」は、アイスランドの映画で、アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの同名小説が原作です。
静かに進行する映画で地味ですが適度な渋みで見やすい作品でした。
「湿地」の登場人物とあらすじなどをまとめます。
「湿地」の登場人物と相関図
登場人物相関図ネタバレなし版
各登場人物の設定段階での相関図です。
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ネタバレ版の登場人物相関図は一番下にあります。
警察関係者とその家族
エーレンデュル
ベテラン刑事
エーレンデュル役のイングヴァール・シーグルソンが準主役くらいの役(落ち目の悪党の役)で出ている映画「ディールブレイク」もアマゾンプライムで見られるようになりました。
ディールブレイクには娘エヴァ役のオーグスタ・エヴァ・アーレンドスドーティルも出ています。こちらは刑事役。面白いですよ。
エヴァ
エーレンデュルの娘
住む家もなく放蕩し、中絶代を父にせびる。
エリンボルク
ベテラン女性刑事
シグルデュル
アメリカ経験のある若手の刑事
湿地帯の人々
オルン
遺伝性疾患の研究員
コーラ
オルンの娘
神経線維腫症で5歳で死ぬ
ホルベルク
トラック運転手(1937年生)
沼地の上に建つ家で死体で発見される
一人住まいで身寄りはない(妹は6歳の時に死亡)
ウイドル(故人)
ホルベルクの隠し持っていた写真は、ウイドルという少女(享年4歳)の墓標を撮ったもの
母親はコルブルン。父親は不明
死んだのは1974年
コルブルン(故人)
ウイドルのシングルマザー
自殺している
エーリン
コルブルンの姉
海の近くに暮らす老婆。家の前にウイドルのお墓がある
ルーナル
元巡査部長の爺さん
エーリンはルーナルを下品な野郎と悪し様に言っている
グレータル
ホルベルクとつるんでいた男
写真が趣味だったらしい
70年代の初めに失踪したまま今も行方不明
エットリデ
ホルベルク、グレータルとつるんでいた男
今は服役中(何をして捕まったのかは不明)
アイスランド人の名前
どの名前も男の人は「~~son」女の人は「~~dóttir」で終わっています。
アイスランドには姓というものがなく、男の人は名前+父親の息子、女の人は名前+父親の娘でワンセットの名前になります。
たとえば、太郎さんの娘の花子さんなら、Hanako Tarodóttir(ハナコ・タロウドッティル)太郎の娘花子 という名前になるってことです。
私もさっき知ったんですけどね(笑)
映画に出て来るウイドルの墓標は「Audour Kolbrunadottir」と彫られていて、このお墓にいるのがウイドルでコルブルンという母の娘なんだなと分かるのですが、氏名を刻んでいるだけで、特段にウイドルという人物を説明するために書いた言葉ではないのですね。
最初は、なんとなく変な墓標だなーと思ったんですよね。
「湿地」のあらすじネタバレなし版
湿地に建つ家で頭から血を流して死んでいるホルベルクが発見されました。
ホルベルクは初老の独身男で、妹がいましたが6歳で死んでいます。
机の引き出しの裏に一枚の写真が貼られていました。
写真は墓を撮ったもので、墓標は「コルブルンの娘ウイドル 4歳で死す」
ウイドルの母コルブルンは自殺していて、父親は届けがなく不明です。
エーレンデュル刑事がウイドルの伯母エーリンに話を聞きに行くと、エーリンはホルベルクへの憎しみを露わにし「ホルベルクが何をしたか、退職した警官のルーナルに聞け」と言います。
ルーナルは、現役時代、ホルベルクがコルブルンをレイプした事件を闇に葬っていました。
アイスランド遺伝子研究社のオルンは、小児病棟へ向かいます。
5歳の娘コーラが神経線維腫症で入院しているのです。
自分の娘がその難病にかかったことがオルンには不思議でなりません。
脳腫瘍のひとつですが、神経線維腫症は遺伝性のものです。
たいてい子供のうちに発症し、長くは生きられない病気です。
「湿地」のあらすじネタバレ版
「湿地」をラストまで詳細にネタバレしています。
読みたい人はタップして開いてください。
「湿地」の感想など
オルンがホルベルクに、子供を作るべきではなかったという意味合いのことを言ったとき「さりげなく問題作!?」と思いました。
遺伝性の病のある家系は絶やすべきであると言っているように聞こえるので。
オルンが神経線維腫症の因子を持って生まれたのは、母が不貞を働いていたからです。
だからこそオルンは、自分がその因子を受け継いでいることを知らずに子を設け、その子供が夭逝することになりました。
もしもオルンが夫婦の間の子であれば、少なくとも脳腫瘍の多い家系であることは自覚できますし、研究が進んで神経線維腫症が遺伝性であると分かった現代なら、子供を作らない人生を選ぶこともできました。オルンならきっとそうしたでしょう。
ホルベルクのしたことは、夭逝する可能性のある病の因子をよその家系に忍び込ませることです。
その無分別が、コーラに「目はものを見るためにあるんじゃない。泣くためにある」と言わせたのです。
コーラだけでなく、オルンの妹もコルブルンの娘ウイドルも、まるで闘病するために生まれてきたような一生でした。
オルンが激しい怒りを燃やしているのは、ホルベルクのその無責任なふるまいに対してだということは分かります。
でもあの場面で言っているのは、もっと根本的に ―婚姻があろうとなかろうと、強姦だろうと和姦だろうと― 重病の遺伝子という「負の遺産」を持つ人間は、子を設けるべきではないという意味に取れます。
「俺ならそうした」とオルンは思っているでしょうし、私がその立場でも子供は作らないと思います。
でも他者に要求していいことなのかどうか…
ここから先は、レイプや不倫という要素を除いて考えなければならないことです。
元々子を作ることは、体質や能力、容姿まで、望ましいとは言えない遺伝子を含めて子に受け継がせることです。
子を作っていい者と作るべきでない者、このボーダーラインをどこに引くのか、誰が引くのか。
…もちろん私には分かりません。
……とにかくそんな感じで、さりげなく問題作じゃない?と思ったわけです。
「俺とあんたが最後の保因者だ」と言うオルンは、自分とホルベルクでこれ以上の遺伝を食い止められると考えているように見えます。
最後の保因者って、それはオルンの知っている中での最後のふたりであって、他にも大勢いるからふたりが死んでもさ…とも考えたり。
あまり科学者らしい発想に感じられず、オルンの思考は恨みで曇っているということかな?と思いました。
でもWikipediaでアイスランドの人口を見たら、オルンの言うことも分かりました。
アイスランドの人口は355,620人。
日本で一番人口の少ない鳥取県で57万人万人なので、全国で35万人のアイスランドは、かなり人口の少ない国です。
その上アイスランドは島国です。
35万人だけの閉じた社会なら、オルンとホルベルクが本当に「最後の保因者」かもしれませんし、発病した子供たちがみんな死んだ今では、ふたりがこれ以上子供を作らなければ、根絶できる可能性も高いでしょう。
また、人口の限られた島の中では、ひとりひとりの社会への寄与度が高く、より責任ある行動が求められるように思います。
そうした土地柄あってのこととすれば、オルンの言動にも納得がいきます。
「湿地」というタイトルは、冒頭近くにある「湿地に建つ家だから床下が臭うのだ」という台詞と同様「こういう土地だからこういうことが起きるのだ」という意味を込めてつけられたものなのかもしれません。
(原題は「Mýrin」で、英訳すると「moor」と出ます。moorは、イングランドやスコットランドの水はけの悪い土地のことです)
映画「湿地」の登場人物相関図ネタバレ版
明らかになった真相ベースの登場人物相関図はこうなりました。
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同じくアイスランドの映画「ザ・ディープ」がAmazonプライム会員さんなら無料で見られます。
アイスランドに興味を持たれた方はぜひ。
ザ・ディープの登場人物やあらすじなどはこちらに