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「ヒトラーに屈しなかった国王」あらすじ感想ノルウェー国王についてなど

2019年2月13日

ノルウェーの映画「ヒトラーに屈しなかった国王

2016年に公開され、ノルウェーで大ヒットした作品です。

受賞歴は、アカデミー賞の外国語映画賞ノルウェー代表、ノルウェーアカデミー賞8部門、ノルウェーカノン賞5部門、ガーデンシティ国際映画祭脚本賞など。

監督はエリック・ポッペ、脚本はエリックとヤン・トリグヴェ・レイネランド。

ノルウェー国王ホーコン7世を演じるのは、イェスパー・クリステンセンです。

静かな感動とともに、国家の一番大切なものは何かと改めて考えさせられる、とてもいい映画でした。

ノルウェー国王

ナチスドイツが台頭した時代、北欧の国がどんな状況だったのかを私は全然知りませんでした。

「ヒトラーの忘れもの」を見た時に「そういえば当時デンマークがどうなっていたか知らないな」と思って調べたくらい。

「ヒトラーの忘れもの」についてはこちらに

ノルウェーがどうなっていたかももちろん知らず…

北欧って世界史であまり詳しく習わないですね。第二次世界大戦あたりからのことも教科書では流しているし。

16世紀からデンマーク王の統治下に会ったノルウェーは、19世紀、ナポレオン戦争にデンマークが負けた際にスウェーデンに割譲されますが、スウェーデンの君主のもと、独自の政府をおく同君連合という形態になり、1905年に独立します。

ノルウェーは立憲君主制を採り、デンマークのカール王子を国王として迎えました

カール王子は、ノルウェー風の名ホーコン7世と改名して戴冠します。

ホーコン7世-ヒトラーに屈しなかった国王
ホーコン7世-PublicDomain

政治を執り行うのは政府で、国王には執政権はありません。

はじめから実際的な政治をしないと決まっている国王をわざわざデンマークから呼んで君主としたわけです。

政府の他に王室をおくことには、時の政権に権力が過度に集中するのを防ぐ効果があり、王室の存在は意外に重要だと聞きます。

…にしても、ホーコン7世は言ってみれば外様の王です。

立場の難しさがあったことでしょう。

「ヒトラーに屈しなかった国王」は、そんな中でナチスドイツの侵攻を受けたノルウェーの実話です。

ヒトラーに屈しなかった国王あらすじ

1940年

雪の積もる庭で、コートに帽子姿の老紳士が子供たちとかくれんぼをしています。

鬼をやりたくないという末の男の子のわがままを姉たちはたしなめますが、老紳士は「おじいちゃんがまた鬼をやろう」と言って子供たちを隠れさせます。

ご想像のとおり、この爺ちゃんが国王陛下ホーコン7世です。

皇太子オラフが、玄関先に出てきて「領海でドイツの船が撃沈された」と報告します。ナチスの侵攻が始まっていました。

議会は、ドイツに軍事的に対抗するのを望まず和解交渉によって解決したい意向です。

ノルウェー警視総監が、ドイツ公使ブロイアーに伝えた交渉のための条件は、武力行使の停止です。

しかしドイツ軍はもう国王と閣僚のいるハーマルへ向かって出発していて、止めることができません。

翌朝、ノルウェーにクーデターが起こります

国民連合党ビドクン・クヴィスリングが新首相になり、ドイツとの友好関係を維持する方針とラジオが伝えています。

戦争を避けたい一心でひとり東奔西走するブロイアー公使でしたが、軍からは、「ノルウェーにドイツの条件を飲ませよ」とさかんに催促され、とうとうヒトラー本人から電話口で「国王とふたりだけで話をして署名させろ」と命令されてしまいます。

ヒトラーに屈しなかった国王-ブロイアー大使
ブロイアー公使-PublicDomain

交渉にやって来たブロイアーは、国王とふたりだけでなければ話をしないと強く主張。

閣僚は同席すら許されません。

ドイツの提示した内容は、ドイツと協定を結ぶことと、ヒトラーの息のかかったクヴィスリングを首相として承認することでした。

上記二件を王に承諾させよというのがヒトラーの指示だったのです。

ここにはふたつの大きな問題があります。

まずノルウェーは立憲君主制の国家です。

国王にその一存で国の重大事を決める権限はなく、今ホーコンがサインすれば、ノルウェーという国の土台が崩れてしまいます。

次にノルウェーは主権国家であるということです。

たとえ国民連合が傀儡政権でなかったとしても、他国の指示で首相を決めることなどあってはなりません。

しかしブロイアーの文書を突き返せば、ドイツの総攻撃が始まるのは目に見えていて、軍事力の差は誰の目にも明らかです。

政治とは切り離された立場だったはずの国王は、大きな決断を迫られますが、その場での返答を頑として断り、ブロイアーに出直すよう求めました。

官僚たちに語った王の選択は、「要求の拒否」。

ホーコンは、執政権のない自身の立場を明確にし、もしも君たちが要求を飲むと決めるなら王位を退き、王室を解体すると宣言します。

閣僚がどう決議したのかは、ドイツ軍のアクションで分かります。

国王と閣僚たちのいるエルベルムに豪雨のように爆弾が投下され、それが戦争の始まりでした。

その後、ホーコン7世とオラフ皇太子はイギリスへ一時亡命。ノルウェーは降伏します。

先にスウェーデンへ逃げ、アメリカで暮らしていた皇太子妃マッタと子供たちに再会できたのは、1945年、ドイツが降伏した後でした。

ノルウェーに帰国したホーコン7世は、主権と民主主義を守った国王として国民に愛されたそうです。

今のノルウェー国王は、オニをやりたくないと言ってお爺ちゃんに甘えていたハーラル5世です。

ノルウェー-ハーラル国王-ヒトラーに屈しなかった国王
ハーラル5世-UKOM CC SA3.0

戦争の経過について詳細はこちらで ノルウェーの戦い|Wikipedia

ヒトラーに屈しなかった国王の感想など

遠い北欧の歴史の1ページを体験できたような気持ちになれて後口のいい映画でした。

「突然王になった」と話すホーコン7世が、ノルウェーを戦場にすることも辞さず、ドイツとの協定を拒否するその決断に胸が震えます。

国家の主権とは、それほど大切なもので、民主政治への他国の介入を許すことは、国の魂を獲られるのと同じこと。

戦争に負けるよりももっと恐ろしいことです。

この映画が2016年の興行収入1位だったというノルウェーには、頼もしさのようなものを感じました。

王冠を棄てる覚悟で国を守った外様の国王ホーコン7世は、ノルウェー国王になる運命に生まれついた人だったのでしょう。

原題「Kongens nei」

原題の「Kongens nei」は、ノルウェー語で「国王の拒絶」という意味です。英語版では「The King’s Choice」(国王の選択)というタイトルでした。

邦題「ヒトラーに屈しなかった国王」より、原題の方が良かったかも?

映画のテーマはヒトラーやナチスがどうこうという問題ではなく、国家の守護というもっと根本的なことです。

「国王の拒絶」や「国王の選択」ではちょっと分かりにくくて訴求力が弱いというか…「ヒトラー」と入った方が興味をひくので仕方ないのかな?

ホーコン7世と日本

ホーコン7世と日本にはちょっとだけ関わりがあり…

日本陸軍の八甲田山遭難事件のニュースを聞いたホートン国王は、スキー板があれば防げたのではないかと考えて、明治天皇にスキー板を送ってくれたそう。

八甲田山の遭難は、映画と史実では軍人のふるまいが大きく違うらしいですが、兵士のさまよったコースは大体映画と同じと思っていいようです。

あれ…スキー板があっても遭難してますよね(笑)

峡谷や雪原をノルディックスキーのように歩いたらその方が楽だったのかな?

当時のことで、詳細は伝わっていなかったのでしょう。

でも、この贈り物に心がこもっていることはよく分かります

さらに余談ですが、皇太子オラフはスキーの発展に貢献したとして表彰されているんですね。

ヒトラーに屈しなかった国王-皇太子オラフ
オラフ5世-PublicDomain

Wikipediaではオーラヴと表記されています。こちらのほうがもしかすると一般的なのかも)

オラフは五輪ヨットの金メダリストでスキーのジャンプもやっていたという大変なアスリートでした。

映画では軍に志願しようとして家族を泣かせてましたけど、戦闘に自信があったのでしょう。