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「閉鎖病棟」原作はこういう物語です-生涯胸に残る台詞の中にある人生の本質

2019年10月19日

帚木蓬生ははきぎほうせいの小説「閉鎖病棟

初版は1994年だったのですね。

私が最初にこの本を読んだのは2010年頃でした。

長年あちこちの本屋さんで平積みになっているのを見ていて、新刊でもないのにすごいなと気になっていたのを2010年にようやく買って読んだのです。

とても地味な雰囲気の話で、サイコな犯罪者が猟奇的な事件を起こすこともありませんし、精神分析が魔法のように心の問題を解決することもありません。

精神科医でもある著者の書いた精神科病棟は現実的で、おしゃれなムードなどみじんもありません。

そんな「閉鎖病棟」が映画化されると聞いてうれしい驚き!

「閉鎖病棟」には生涯忘れないであろう台詞があり、個人的に特別な小説なのです。

原作「閉鎖病棟」の登場人物、あらすじなどを紹介します。

 

原作小説「閉鎖病棟」の登場人物

登場人物相関図

※原作の登場人物紹介です。映画とは何かと違います。

 

閉鎖病棟原作小説登場人物相関図

各登場人物について

※原作の登場人物紹介です。映画はちょっと違います。

外来患者

島崎さん(島崎由紀)

不登校で外来に通院中の女子中学生。

親も友人も伴わず一人で訪れた産婦人科で中絶をした頃から学校へ行っていない。

可憐で美しく病院内では異色の存在。

チューさんや秀丸さんたちと親しく、最近は病院の陶芸教室にも通ってきている。

入院患者

チューさん(塚本中弥)

若い頃に統合失調症を発症。

父親を殺しかねない状態になり入院して以来30年病院で暮らしている。

短歌をたしなみ、患者の演じるオリジナル劇の脚本を任されるなど文才にたける一方、院内で育てた盆栽を市内の施設に無償でレンタルしてノベルティグッズや優待券が手に入るシステムを構築する商才も併せ持つ。

病棟のボヤ騒ぎでは若い職員よりも先に消火器を持って作業に駆け付け、炎が広がるのを防ぐ冷静さも発揮する。

秀丸さん(梶木秀丸)

父親の自殺後、母が他の男と暮らす家に乗り込み、実母と恋人、その息子と娘を殺して死刑判決を受ける。

ところが絞首刑で秀丸さんは死なず、二度は執行できないという原則から戸籍のない人間として放免された。

日雇い労働で食いつなぐが、生来のてんかん発作が頻発するようになると失業。

行くあてもなく逮捕前に通っていた病院を訪ね、医師の便宜によって雑役をしながら病院に住み込めることになる。

怪我で歩けなくなってからは病棟へ移り、患者として生活している。

奥行きのある人柄から院内で慕われる苦労人。

達筆でチューさんの短歌を毛筆で清書するなど風流人でもある。

昭八ちゃん

知的障害があり、ある出来事で叱責を受けた際に心の均衡を欠き納屋に放った火が隣の民家に延焼。

これを機に病院へ入れられたまま、家族から退院の打診はない。

耳が聞こえないため、ゼスチュアと声の調子でしかコミュニケーションがとれないが、チューさんとは理解しあっていてとても仲がいい。

入院してから写真に興味を持ち、今ではいつでも一眼レフを持ち歩いている。

敬吾さん

昭八ちゃんの甥。

自衛官だったが、退職して家に帰った数年後から自室へ引きこもるようになる。

そのまま9年が過ぎ、万策尽きた両親が病院へ連れて来た。

今は柔和な顔つきになり、叔父の昭八ちゃんといつも一緒に行動している。

重宗

覚せい剤使用による幻覚でスーパーの女性店員を刺して逮捕された男。

薬物の影響下での犯行で罪にならず、病院へ送られてきた。

院内では誰とも親しくならず、暴れて隔離病棟へ入れられると一晩中壁を殴って抗議し、隔離を解かざるを得なくさせるなど、粗暴で迷惑な存在。

 

ええ。その通りです。島崎さん以外は全員おじさん乃至おじいさんです

原作「閉鎖病棟」のあらすじをネタバレなしで

チューさん秀丸さん昭八ちゃん敬吾さん

気の合う入院患者4人が、通院の島崎さんを誘って八幡神社へ梅見に出かけます。

島崎さんは不登校で病院へ通っていますが、とても問題のある子には見えず、とても素直で賢い娘さんです。

病院に舞い降りた天使のような島崎さんをチューさんたちはとてもかわいがっています。

次の春には島崎さんが中学を卒業するのだと話題になると

「お祝いに来年また来よう

当たり前のようにそんな約束が交わされました。

来年も再来年もここにいる。

他のみんなもここにいる。

そう思うのも無理はありません。

たとえばチューさんは入院してもう30年。

入院中に多くの新入院患者を迎えましたが、退院する人を見送ったことはほとんどありません。

でも、この約束が果たされることはありませんでした。

間もなく、安楽な入院生活を揺さぶる思いもよらない事件が起こり、事件は殺人によって決着します。

院内の顔ぶれも変わりました。

秀丸さんはいなくなり、島崎さんも診察に来ていません。

チューさんは一つの決意を固め、医師にどう切り出そうかと思案しています。

原作「閉鎖病棟」の感想など

あらすじでお分かりいただけるとおり、「閉鎖病棟」と題されてはいますが、主要な登場人物に閉鎖病棟の入院患者はいません。

彼らを閉じこめる鎖とは、病院で一生を終えるのだと決めてしまっている彼ら自身の心です。

小説の中には「病院の暮らしは楽しいので十年くらいすぐにたつ」(文意)という言葉もあります。

でも本当にそれでいいのかと、生きる意味を問い直す作品が「閉鎖病棟」です。

人生を支える台詞「秀丸さん退院したよ」

私の生涯忘れることのない台詞というのは、作品の終わり近くでチューさんの叫ぶ「秀丸さん退院したよ」という台詞です。

この飾り気のない言葉がなぜこうも心に残っているのかと言えば、私にも「心が退院した」と感じたことがあるからです。

私には数か月間仕事をせずに過ごしたことがあります。

色々とあって…ええ色々です。色々。

社会に出て働けばきっと誰もが経験するであろう程度の色々ですが、当時の私はひどく傷つき、「もう仕事なんかできないな」と決め込んで求人情報すら見ずに過ごしていました。

そうは言っても働かずに生きることなどできるはずもありません。

休養によってダメージからも回復したのでしょう。

そうして毎日無為に暮らしている現状に疑問を感じ始めると、日ごとに虚しさが募り、最後には自分にうんざり。

結局同じような仕事に戻りました。

案の定と言うべきか、戻るとすぐにまた嫌なことが起きました。

悲しさと悔しさ、不公平を呪いたいあの気持ち。

そうです、あの気持ちです。

でも以前と違って「これが生きているということなんだな」と感じたのです。

社会に自分を晒せば、あちこちから矢が飛んできます。

悪意で攻撃してくる人ももちろんいますが、善意の行為ですら受け手を傷つけることも。

人と関わらず自室に籠っていればそんな怪我を防ぐことはできるでしょう。

でもそこに生きる実感はありません。少なくとも私はそうでした。

悩み、腹を立て、涙を流すことにこそ人生がある。

だとすれば、今私は生きている。

職場からの帰り道でそう思ったのです。

その時、あの台詞が鮮明に甦りました。

「そうか私も退院したんだ」と思うと、悔しい出来事すら愛おしく思えて、そこからは歩調を上げて家に帰りました。

涙が出そうだったから。

部屋についてドアを閉め、靴を脱ぐよりも先に声に出して言いました。

「秀丸さん退院したよ」

今も何かあるとこの言葉を思い出します。

そうすると、どんなことも「これでいいんだ」と思えるのです。

映画「閉鎖病棟-それぞれの朝-」

2024年追記

映画観ました。

よいです。

よいですが、原作のほうがずっとずっとずっといいです。

映画がダメなんじゃないです。ただ、あの原作を超えるのは至難の業、ほぼ不可能ってことです。

映画観た人は原作も読んでください。

映画「閉鎖病棟」を見た人におすすめの映画作品

人生、ここにあり!

イタリアの実話をもとに作られた映画です。

精神科に長期入院していた患者の労働組合で始めた寄木細工の床事業は好評を得て、それぞれの病状も上向きに。

症状の改善に合わせて薬が減らされると異性への関心を取り戻した青年患者は、床を工事した家の女性に恋をします。

プロポーズしようと心に決める一途な青年でしたが、失恋よりも前に失恋よりも絶望的なことが…

それでも南欧の作品らしく前向きに締めくくられる映画です…が…

「人生、ここにあり!」を配信しているVODサービスはないみたいです。

制作は2008年と少し古いですが、とてもいい映画なので宅配レンタルを利用してでも見て欲しいです。

ゲオ宅配レンタルは、初回のご利用で月額会員になれば最初の1ヶ月は無料です(送料も無料)

34丁目の奇跡

入院歴のある人が異常な事件を起こすニュースは時々あります。

そんなニュースを見る時、正直言って怖いと感じずにはいられません。

でもそれにしたって病状によりきり、すべての患者さんを病院に閉じ込めることはないよねと再確認できる作品です。(実話ではない)

主人公の爺ちゃんは、自分はサンタクロースであるという妄想が頑固に残っているもののそれ以外はほぼ正常に見える状態で、原作「閉鎖病棟」で言えばチューさんがちょうどこれくらいの病状なのではないかなという感じです。(映画ではどうなのかまだ分かりませんが)

「閉鎖病棟」や「人生、ここにあり!」とはテーマが全然違いますが、きっと気に入ってもらえる映画です。

クリスマス映画の最高傑作でもあります(断言)

元は1947年のモノクロ映画ですが、新技術により2006年にカラー化されています。

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ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社

1994年のリメイク版もあり、1947年版を「三十四丁目の奇跡」、1994年版を「34丁目の奇跡」と表記されるのが通例のよう…と言うか日本公開時のタイトルがその表記だったのか。

どちらもいいので両方見るのをおすすめしますが、どちらかだけを見るなら47年版がいいと思います。

 

ローズの秘密の頁

こちらは精神科に強制入院させられたまま40年を過ごした女性ローズの話です。

40年ぶりに病状を再評価することになり、外部の医師が呼ばれると、ローズは聖書に書き溜めていた日記を見せ、これが真実だと主張します。

ローズは自分の産んだ子を殺したと言われているのです。

静かに進行する映画ですが、ローズの話は本当なのか嘘なのか、それとも妄想なのかと考えながら見るミステリー作品でもあり、主演のルーニー・マーラの美しさも手伝ってまったく疲れずに見られます。

やはり閉鎖病棟とはテーマが違いますが、とてもいい映画なのでここに入れておきます。