「ある女流作家の罪と罰」あらすじ感想など-伝記作家が自伝を書く時
日本では劇場公開されなかったんですね。もったいない。
私文書偽造の物語(実話です)なのでクライムストーリーと言って言えないこともない作品ですが、捏造がバレるかバレないかできりきり舞いしたり、FBIからの逃走劇を演じたりする展開を期待して見るとがっかりしちゃうかもです。
テーマや教訓をバシッと示してくれる系を見たい場合にも向いていません。
サクセスストーリーともちょっと違います。
じゃあどんな話なんだよって言う(笑)
ドロップアウトした中年が詐欺で数百ドル稼いだりいたずら電話したりする話(実話)です。
Contents
「ある女流作家の罪と罰」のあらすじ
リー・イスラエルは凋落した女流作家
過去には何作かの伝記小説がヒットしましたが、今ではエージェントからのオファーもありません。
それというのも本人の人となりのせい…と、かつては懇意だった編集者は言っています。
身なりにまるで頓着せず、メディアに登場することをかたくなに拒むリーの名は売れず、名を知られていない作家の本は売れないのだと。
表舞台に出たくない、自分にスポットライトを当てて欲しくないという性質は、ある意味いかにも芸術家らしく、こんな小説家は大勢いるんじゃないかと思うのですが、とにかくリーは干されています。
生きるために勤めていた会社でも周囲とうまく調和できず結局失業。
家賃は滞納中で猫の治療費も払えません。
泣く泣く古書店に持ち込んだ生前のキャサリン・ヘプバーンの手紙についた買取価格は175ドル。
今ならオークションサイトなんかでもっともっと高く売れるところでしょうけれど、(90年代前半のアメリカの出来事です)リーは175ドルをありがたく受け取ったのでした。
「著名人の手紙は金になる」
これを知ったリーは、でっち上げの手紙を作成し始めます。
この下はややネタバレです。
実話をもとにした映画なのでどうなるのか知っている人も多いと思いますが、念のため隠しておくので読む人はタップで開いてください。
「ある女流作家の罪と罰」の感想など
海千山千な古物商の世界
主人公は、意固地で気難しく不潔でずうずうしい最悪なおばさんなのに、手紙の偽造を始めた時にはなぜか痛快な気持ちになって「おばちゃんやるじゃん」と思ったり。
すぐばれると予想していたら案外長続きしてびっくりでしたが、古物商の中には騙されたフリして転売する人もいたのかもしれません。
Wikipediaによると、事件発覚後もリーの捏造レターが高値で売られていたのは事実だそうですし。
手紙の偽造よりも心に残った裁判所でのリーの告白
裁判所で、小説を書かずに黒子として伝記ばかりを手掛けてきた理由を話すリーには好感を感じました。
プライドの高い彼女が自分の弱さを告白することが出来たのは、偽造で得た自信のおかげ?
犯罪ではありますが、誰にでもできることではありません。
本人の性格に沿った手紙を本人の文体に似せて書き、さらに高値を誘い出すには、本物らしさを逸脱しない範囲で衝撃的な要素を加える必要もあります。
リーはこの仕事で今までにない自信を獲得し、それによって幸せを感じていました。
彼女には確かに人を見る才能があり、本来伝記作家は天職だったはずですが、うまくいきませんでした。
実弾の飛び交う戦場に出なければ戦ったことにはならない
編集者の言うとおり身なりを整え、トム・クランシーのようにメディアに出演すればよかったのかどうか…個人的にはここはちょっと「?」ですが…問題はTVやラジオに出るか出ないかではなく、辛口の批評や無責任な中傷に晒される勇気があるかないかということです。
自分自身が矢面に立つ覚悟を決めたリーが自伝で得た成功は、どんな人も最後は手持ちの武器で戦場に出るしかないのだと教えてくれます。
映画に出て来る「ヒトラーの日記」とは
このことでしょう。
筆跡サンプルまで偽造していて、主犯は実刑で懲役4年6ヶ月
その後のリー・イスラエル
リーは2014年のクリスマスイブに多発性骨髄腫で亡くなっています。
最期の時を過ごした病院の職員はリーについて「アル中の性悪女のイメージとは程遠い慎み深い人だった」と話しているそうです。
参考:Fakes and fortunes: has the time come to forgive literary forger Lee Israel?| The Guardian